骨がもろくなり、骨折リスクが高くなる疾患
骨粗しょう症は、老化などが原因となって骨の量が減少し、鬆(す)が入ったように骨がスカスカになり、もろくなって骨折リスクが高くなってしまう疾患です。
骨に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル量(骨密度)は、20~30歳頃の若年期をピークに、年を重ねるとともに次第に減少していきます。
この骨密度が減少をきたすことによって骨粗しょう症と言われる状態になり、背骨が体の重みでつぶれたり、背中が曲がったり、変形による圧迫骨折をきたしたり、ちょっとした転倒で骨折するといった事態を引き起こしがちになります。
今日のわが国で「骨折・転倒」は介護が必要になる原因のワースト5に入っていますので要注意です。
女性に多い骨粗しょう症
骨粗しょう症は、高齢の女性を中心に、年々増加の一途をたどっています。患者さんは約1,280万人いると言われます(「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」2015年版)。
骨粗しょう症の患者さんの8割程度を女性が占めており、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下する更年期以降には、特に多く見られます。閉経して、女性ホルモンの分泌量が減少してきますと、骨吸収のスピードが速まるため、骨形成が追いつかず、骨がもろくなってしまうのです。そのため、閉経を迎える50歳前後から骨量は急激に減少し始め、70歳以上になると2人に1人が骨粗しょう症になっていると言われます。ですので、50歳になる前に一度は骨粗しょう症の精密検査を受けるよう、お勧めいたします。
FRAXで骨折リスクを診断
FRAX(fracture risk assessment tool)はWHO(世界保健機関)が開発した「骨折リスク評価法」です。FRAXは40歳以上の方を対象にしており、この評価法を用いると、その人の以後10年間の骨折リスクの診断が可能になります。
インターネットでWHOのホームページにアクセスし、12の質問に答えると、自分自身の10年以内に骨折する確率(%)が、自動的に算出されます。FRAXは、医療の現場でも、薬物治療を始めるかどうかの判断に使われることがあります。
チェック項目の1つ「大腿骨頸部の骨密度」については、体格指数(BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))を入力しても判定が可能で、骨密度の測定が必要無いというのも特徴です。
FRAXで骨折リスクが高く出て心配な方は、医療機関への受診をお勧めいたします。
FRAXの12の質問項目
- 年齢
- 性別
- 体重
- 身長
- 骨折歴
- 両親の大腿骨近位部骨折歴
- 現在の喫煙の有無
- 現在のステロイド服用、あるいは過去の3ヶ月以上にわたる服用の有無
- 関節リウマチの有無
- 1型糖尿病、甲状腺機能亢進症、45歳未満の早期閉経など、骨粗しょう症を招く疾患の有無
- ビール換算で毎日コップ3杯以上のアルコールを摂取するかどうか
- 大腿骨頸部の骨密度(またはBMI)
骨粗しょう症の予防と治療
骨粗しょう症の原因のうち、年齢や性別、遺伝的な体質などは変えることができません。しかし、変えることのできる要素、つまり食生活や運動などの生活習慣を見直すことにより、予防と改善が可能です。
食事療法
骨粗しょう症の治療や予防に必要な栄養素は、骨の主成分であるカルシウムやたんぱく質、および骨のリモデリング*に必要なビタミンD・Kなどです。
カルシウムは食品として700~800mg/日、ビタミンDは400~800IU/日、ビタミンKは250~300μg/日を摂取することが推奨されています。これらの栄養素を積極的に摂りながら、しかもバランスの良い食生活を送ることが大切です。
骨粗しょう症の人が避けるべき食品は特にありませんが、リン(インスタント食品、スナック菓子、炭酸飲料、練り物などの加工食品に多く含まれます)やカフェイン、アルコールなどの摂り過ぎに注意しましょう。過ぎた量のアルコールは、カルシウムの吸収を妨げたり、尿からのカルシウム排泄量を増やしたりします。カフェインもまたカルシウムの排泄を促します。リンを摂り過ぎると、血液中のカルシウムとリンのバランスを保とうとして骨中のカルシウムが血液中に放出されてしまい、骨密度の減少を招きます。
*リモデリング:骨を壊す働きをする「破骨細胞」が骨を吸収する一方で、骨をつくる働きをする「骨芽細胞」が、破骨細胞によって吸収された部分に新しい骨をつくる代謝作用のこと。
積極的に摂りたい栄養素を多く含む食品
- カルシウム:牛乳、チーズ、干しえび、しらす、ひじき、わかさぎ、いわしの丸干し、えんどう豆、小松菜、モロヘイヤ など
- たんぱく質:肉類、魚類、卵、乳製品、大豆 など
- ビタミンD:アンコウの肝、しらす干し、いわしの丸干し、すじこ、鮭、うなぎの蒲焼き、きくらげ、煮干し、干し椎茸 など
- ビタミンK:納豆、抹茶、パセリ、しそ、モロヘイヤ、しゅんぎく、おかひじき、小松菜、ほうれん草、菜の花、かいわれ大根、にら など
運動療法
骨は、運動をして負荷をかけることで増え、より丈夫になります。さらに、筋肉を鍛えることで体をしっかり支えられるようになったり、バランス感覚が良くなったりし、ふらつきが少なくなって転倒防止にもつながるため、運動療法は骨粗しょう症の治療に欠かせません。
骨量を増やすには、ウォーキングやジョギング、エアロビクスなどの「中強度」の運動が効果的で、激しい運動をする必要はありません。散歩などを可能なら毎日、あるいは週に数回でも効果が出てきますので、とにかく長く続けてください。運動量を少しでも増やそうとする心がけが大切です。
薬物療法
病状が進んだケースでは、食事療法や運動療法に併せて薬物療法を開始します。現在、使われている薬には、骨の吸収を抑える「骨吸収抑制剤」、骨の形成(新しい骨をつくる)を助ける「骨形成促進剤」、骨の栄養素である各種ビタミン(D、K)剤などがあります。また、腰や背中などに痛みがある場合は、痛みをとる薬も用いられます。どんな薬を選び、いつから治療を開始するかについては、個々の患者様の年齢や症状の進み具合などを考え合わせながら、医師が判断します。
現在、治療に用いられている薬には、主に以下のようなものがあります。
ビスフォスフォネート製剤
骨吸収を抑制することによって骨形成を促し、骨密度を増やします。骨粗しょう症の治療薬のなかでも有効性の高い薬です。ビスフォスフォネートは腸で吸収され、すぐに骨に届きます。そして破骨細胞に作用し、過剰な骨吸収を抑制するのです。骨吸収が緩やかになると、骨形成が追いついて、密度の高い骨ができ上がります。
SERM(サーム:塩酸ラロキシフェン)
骨に対しては、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があり、骨密度を増加させますが、骨以外の臓器(乳房や子宮など)には影響を与えません。
副甲状腺ホルモン製剤
骨形成を促進して骨量を増やし、骨折を減少させる薬です。専用キットを用いて1日1回自己注射する薬と、週1回医療機関で注射する薬があります。複数個所に骨折が起こっている、骨密度が著しく減少しているなど、重症の患者さんに用いられます。
活性型ビタミンD
カルシウムの腸管からの吸収を増やす働きがあります。また、骨形成と骨吸収のバランスも調整します。
ビタミンK
カルシウムが骨に沈着する際に必要になるたんぱく質を活性化させる働きがあるため、骨の質を改善します。骨折を減らす効果が認められています。
女性ホルモン製剤(エストロゲン)
女性ホルモンの減少に起因する骨粗しょう症に有効です。閉経期の様々な更年期症状を軽くし、併せて骨粗しょう症を治療する目的で用いられます。
カルシトニン製剤
骨吸収を抑制する作用があり、強い鎮痛作用も認められています。骨粗しょう症に伴う背中や腰の痛みに用いられます。
抗RANKLモノクローナル抗体
破骨細胞は、骨芽細胞と結合することによって骨を壊す細胞になります。この結合する部分(RANKL)をブロックすれば、結合することができなくなるため、骨は壊れなくなります。このようにして骨が溶け出していく過程が遮断され、骨粗しょう症を治療することができると考えられています。
なお、この薬の特徴は、6ヶ月に1回の皮下注射で良い点です(6ヶ月製剤)。ただし、血中のカルシウム濃度が下がりがちなため、ビタミンD製剤やカルシウム製剤を毎日服用していただくようになります。